反物質流

たんものしちながれ

染め物の技法に「鹿の子絞り」というのがあって、草間彌生のような文様を一つひとつ、布を糸で縛って作るので、柄によっては一反仕上げるのに何ヶ月もかかる。あまりに贅沢なので、江戸時代には禁止令が出た程。ところが、海外工場ではそれを、穴の空いた鉄板を裏から吸って、ものの数秒で仕上げるというのだから、たまったものではない。

同じことが、IT業界でも起きつつある。最先端のようでいて、一台ごとの職人仕事だったサーバ構築が、クラウド化によってようやく、産業革命の恩恵を受けられるようになってきた。恩恵というのはもちろんクライアント側から見た話で、自らを差別化できないエンジニアにとっては、相当に厳しい時代である。随分と前から言われていたことだが、ここへ来て完全に潮目は変わった。

本当に良いもの、対価に見合う価値を認める顧客のあるものは、残る。しかし「手作り」というだけで価値があるというのは考えが甘過ぎる。そんな内輪の価値観に囚われていては全滅しかねない。自らの強みと、それを活かせる領域、顧客を早く見極め、特化してくべきだろう。

独りよがりなこだわりを捨て、真正面から己れと向き合うならば、強みは必ず見つかるはずだ。