■
学生時代、バブルは終わった、皆がそう実感した頃だろうか、
同窓生と集まり、そのまま俊太郎の家に押しかけて泊まった。
先に起きて、当時まだ第一線のアナリストだった植草先生と
代議士さんの討論番組を見ながら、俊パパと朝食。
植草先生が数字やグラフを巧みに使いながら、いかに経済が
危機的状況か、鋭く指摘する一方、代議士先生はただただ
景気は良くなる、と根拠なく自身満々の言葉を繰り返すだけ。
「政府の無能ぶりが手に取るようですね」などと知った口を
利いていると、俊パパから思わぬ言葉を聞くことになった。
「政治家は嘘でもいいから景気は良くなると言わないと。
悪い悪いと言っていれば気分が冷え込みますます悪くなる。」
明治以来、我が国は「パッと戦争」「パッとオリンピック」
そうやって冷え込む経済を盛り上げてきた。
しかし、もうそういうのも効かないほど、この国の、特に
真ん中から下の世代の多くは、己の無力も痛感している一方で
政治も経済も何も信用していない。
リスクをとって投資するだけの資金もない、貯金は増えない、
一方こんなに低金利なのに先行きを案じてローンも組めない。
そもそも車も家も、家庭や恋人すらも欲しいと思わない。
否、思えない。何かを持っているごく一部の人のほかは
自分にも、この国にも、明るい未来なんか、あるわけない、
そもそも未来は明るいなんて、何を根拠にそんなことが
信じられるのか、頭悪いんじゃないのか、そんな空気だ。
そんなところで安保法制を強行採決なんかして、
中身はともかく、人々の心には止めを差すことには
なりはしないか。